おけましておめでとうございます。3学期の始業式にあたり話をします。
いよいよ新たな年の幕開けを迎えました。皆さんはよい年明けを迎えることができたでしょうか?
さて今年は巳(ヘビ)年ですが、皆さんの中にも「ヘビはニョロニョロしていてちょっと苦手」という苦手意識を持つ人が多いかもしれません。音もなくスルスルと這い回っている怖いイメージが先行している人も多いのではないでしょうか。現に古来よりヘビを忌み嫌うかのような言い伝えは多く、実際、日本で最古といわれる古事記では、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)として素戔嗚尊(スサノオノミコト)に退治されています。旧約聖書においても、エデンの園でアダムとイブに禁断の果実を食べるようそそのかした悪者として登場したのはヘビでした。日本各地方の言い伝えの中にもヘビを恐ろしいもの、遠ざけたいもの、そしてよからぬことの前触れとしてヘビを扱うものが多くあります。また能や歌舞伎の世界においても、人間が大蛇になる物語や、大蛇が人間に化ける物語などもあり、おおむねこうした場合の大蛇は、人間とは敵対するものとして描かれることが多いようです。このようにヘビを恐ろしいものと考えるのは、やはりヘビが生き物の命をとるときの恐ろしい‘丸のみ’のイメージや、人間をも死に至らしめるような毒をもつような種も多く、時にはその被害を耳にすることもあるからかもしれません。
しかしそのような、時に悪の象徴であるかのように扱われることもあるヘビも、一方では良い象徴と捉えられることも多々あります。ヘビを単なる悪者ではなく、神がかった力を持つ神秘的な生き物として、畏怖の念をもって扱うというのも、人間のヘビに対する捉え方の大きな特徴でもあります。神社のご神体がヘビであることも決して珍しくはありません。白ヘビは神の使いであると崇められ、白ヘビが日本各地で天候神や豊穣神として古くから信仰されています。また「ヘビの抜け殻は金運のお守り」など、ヘビを神聖なものと考える例は全国各地にあります。さらに中国の伝説では、「蛇を救った王の夢に現れて財宝を捧げる」など、受けた恩を必ず返す動物としての言い伝えもあるようです。また湿気を好み、泳ぐこともできるヘビは水と関連付けて崇拝されることも多いと聞きます。農作物の出来不出来に大いに関係する水をつかさどるものとして、ヘビは豊作を願う心、ひいては子孫繁栄、金持ちになるという願いを引き受ける神聖な生き物として扱われるようになったと言われています。このように、様々な時代、様々な場所において、ヘビは時に神の使いとして信仰されてきたという歴史があるのです。
国や地域のみならず、人が「個人」としてもヘビは幸運をもたらすものであると考えてきたことがうかがえる言い伝えもあります。ヘビを家の守り神として崇め、「家の敷地内でヘビを殺せば家が途絶える」、「家にヘビが住み着くと家が栄える」、「家にヘビが這い入ると病人が回復する」、「ヘビの夢を見ると運気が上がる」、「春の早いうちにヘビに出会うと縁起がいい」というような言い伝えが残っている地域も全国各地にあるようです。
このようにヘビを神聖視する理由としては、①長いものを長寿の象徴であり縁起物と考えている(蕎麦や山芋なども同様)、②生命力が強く、脱皮を繰り返して成長するヘビは、その生命力から「不老長寿」を象徴する動物であり、新しい生命が宿る「再生」や「復活」を意味する吉兆であると捉えられている、などが考えられるようです。
今年はヘビ年なので、脱皮を繰り返し、成長していくヘビのように、皆さんも新しい経験や学びを通じて自分を成長させる一年にしてくれることを期待しています。またヘビは、ゆっくりとしなやかに、曲線を描きながら動くので、変化する環境に柔軟に対応する力を象徴しているとも言われています。皆さんも、時には失敗や困難、あるいは改善を余儀なくされる場面を経験することも数多くあると思いますが、そのような時こそ、ヘビのような柔軟性をもってしなやかに乗り越えていってほしいと思います。
一方でヘビは、隠れた場所に住むところから、「無意識」や「潜在意識」、あるいは「自分の未知なる側面」の象徴ともされています。私たちは、自分でも意識できない心を持っています。恋愛ドラマなどにおいて、二人はケンカばかりしているのに、実は無意識的に恋心が芽生えていたといった定番などもよくありますよね。あるいは、何かの目標を目指して頑張っているときに、世間体もあって表向き頑張っている体ではいるけれども、心の奥底には不安や葛藤などがあって、実は無意識的にその目標に向かいたくなくなっているということもあると思います。やはり目標達成のためには、外から客観的に見える言動も、自身の心の底も一致している状態が望ましいとは思いますが、誰もが心の中に自分でも自覚のない未知なる側面や隠したい影の部分を持っているので、それはなかなか難しい場合も多いと思います。自分のそのような部分を見つめることは、時に抵抗を感じることであり、時に辛いことかもしれませんが、それを自覚しようとすることこそが新しい自分につながるのかもしれません。自分の最も大きな長所も短所も、ともすれば自分自身の本質も、意外と自分自身にはわからない部分や自分では隠したいとさえ思う部分にあるかもしれません。今年はせっかく再生を意味する吉兆でもあるヘビ年なので、脱皮を繰り返して成長するヘビのごとく、過去の失敗や無自覚な意識にも向き合い、そして自分の隠したい影の部分すらも新たな成長への糧と変えるような絶好の年にしてくれることを心から期待しています。ぜひこの2025年を、縁起よく「巳(実)」を結ぶ年にしてください。
さて、このあとはTBM教育のプログラムのフルコースです。いつも言っていますが、この年の「初め」と年度の「終わり」という対極が混在する神秘的な時期だからこそ、よりいっそう意味があるのです。だからこそ須磨学園は今日という日にTBM活動のフルコースに取り組むのです。この2025年という年を再生と成長の素晴らしい年にするために、「なりたい自分」について、たくさんのことを想像して、たくさん考えてください。そしてxyzTを通して、人の心の広さ、高さ、深さ、温かさについてたくさん思いを馳せて、たくさん感じてください。考えたこと、感じたこと、心に決めたことを周りとたくさん話して、しっかりと心を込めて、書き初めとして表現してください。今日TBM活動に真摯に取り組むことで、今日考えたこと、感じたこと、定めた目標、それぞれの書き初め、そして今日という日そのものが、皆さんをしかるべき道へと導いてくれる道しるべとなります。今日という日が、皆さんにとって2025年という新たな年を力強く歩みだし、2024年度という年度を力強く駆け抜けるための貴重な門出の日となることを心から期待しています。
最後になりますが、高校3年生の皆さんはいよいよ勝負の年の幕開けです。皆さんの大切な勝負における健闘を心から願っています。とにかく大切なことは、「凡事徹底 ― 基本の徹底」だと思います。思いがけないラッキーを生むのも、平素の基礎の積み重ね、そして「いつも通り」の精神だと思います。これまで繰り返し使ってボロボロになった教材を大切にしてください。いつも共に過ごしてきた家族や仲間や先生たちの思いや言葉を大切にしてください。いつものこの環境を大切にしてください。これまで続けてきた基礎の積み重ねを信じて、自信をもってアウトプットしてください。そして…どんなときでも前を向いていてください。
勝負において、最も避けたいことは、「想定外」のことです。しかしいかなる勝負においても「想定外」の状況を避け切るのは難しいものです。勝負において、相手が想定外の動きをした、想定外の問題が出た、などのヘビーな状況はよくありますが、これらは事前に想定する ―完全に読めなくても類する場面のシミュレーションを行う― ことはできます。まだまだ今の段階で自分なりにできる「想定外」の状況の回避はたくさんあると思います。想定外の体調不良を避けるためにもぜひ体調の管理、朝型のバイオリズムの調整を徹底してください。電車が延着したときのイメージをしておいてください。古いセンター試験の問題を‘通し’で演習するなど、ぜひ想定外の問題形式が出された時のイメージをしておいてください。この丘の上での「いつも通り」の精神を支えにして、事前にできる限り想定外をつぶすための想定をして、当日は自信をもって成果を手繰り寄せてください。心から応援しています。
さあそれでは全校生の皆さん、全員で今日という日をよい一日に、そして今年をよい年にしましょう。
2025年1月6日 高校校長 堀井 雅幸